秋田県仙北市、角館の武家屋敷から車でほど近い森の中。
茅葺き屋根の門をくぐると、そこには時間の流れがゆるやかに変わる空間が広がっています。
「角館山荘 侘桜」は、全10室だけの小さな温泉宿です。
築二百年を超える古民家を移築した母屋を中心に、日本建築の美しさと現代の快適性が静かに調和しています。
華やかな演出ではなく、建築や庭、温泉、料理を通して、その土地の時間を味わうこと。
そんな滞在を目的に訪れたい一軒です。
今回は、実際に宿で過ごす流れに沿って、「角館山荘 侘桜」の魅力をご紹介します。
1日目 15:00 茅葺き屋根の門をくぐり、侘桜へ

宿へ近づくにつれて、周囲の景色は住宅地から田園風景へと変わっていきます。
やがて見えてくるのが、茅葺き屋根の大きな門。
木製の看板には「侘桜」の文字が刻まれ、門の先には手入れの行き届いた庭と母屋が静かに佇んでいます。
車を降りると、聞こえてくるのは風に揺れる木々の音だけ。
街の喧騒から離れ、この場所で過ごす時間が始まります。
1日目 15:10 囲炉裏のあるラウンジでチェックイン

館内へ入ると、最初に案内されるのは囲炉裏を囲むラウンジです。
木の梁や家具が落ち着いた雰囲気をつくり、大きな窓からは四季折々の自然を眺めることができます。
チェックインは席に座ったまま。
ウェルカムドリンクをいただきながら宿の説明を受けるため、到着してすぐに慌ただしさを感じることはありません。
宿全体に流れるゆったりとした空気が、この時間から伝わってきます。
1日目 15:30 築二百年を超える古民家を歩く

客室へ向かう前に、母屋をゆっくり歩いてみます。
侘桜の母屋は、秋田県内から移築した築二百年以上の古民家を活用した建物です。
天井を見上げると、太い梁が力強く組まれています。
畳敷きの大広間には自然光がやわらかく入り、木や土、和紙といった素材の質感をゆっくり楽しめます。
豪華さを前面に出す建築ではありません。
昔ながらの日本家屋が持つ落ち着きを、そのまま現代へ受け継いでいるような空間です。
館内を歩くだけでも、この宿が建築を大切にしていることが伝わってきます。
1日目 16:00 森に包まれた客室で過ごす時間

チェックインを終え、客室へ向かいます。
侘桜は全10室すべてが離れ形式となっており、それぞれが独立した空間として設計されています。
扉を開けると、和室とベッドルーム、ソファスペースがゆるやかにつながる開放的な客室が広がります。
木の温もりを感じる設えに、落ち着いた色合いの家具。派手な装飾はありませんが、その分だけ空間そのものの心地よさが際立ちます。
大きな窓からは、角館の豊かな自然を一望できます。
季節によって色を変える森を眺めていると、時計を見る回数が少しずつ減っていくように感じられます。
宿へ到着したばかりですが、「どこへ出かけようか」と考えるよりも、「この部屋でゆっくり過ごしたい」と思わせてくれる客室です。

リビングの奥にはダイニングスペースがあります。
夕食と朝食は食事処でいただきますが、滞在中にお茶を淹れたり、本を読んだりする時間にもぴったりの場所です。
窓から差し込む自然光が室内をやわらかく照らし、時間帯によって表情が変わります。
旅先では観光が中心になりがちですが、侘桜では客室で過ごす時間そのものが旅の目的になります。
何か特別なことをするのではなく、静かな空間で思い思いの時間を楽しむ。そんな滞在が似合う宿です。

客室の外には、森へと続くテラスが設けられています。
椅子に腰掛けると、目の前に広がるのは木々の緑と澄んだ空気。
聞こえてくるのは風に揺れる葉の音や鳥のさえずりで、人工的な音はほとんどありません。
朝の爽やかな空気を感じる時間も、夕暮れに景色がゆっくり変わっていく様子を眺める時間も、このテラスならではの楽しみです。
予定を詰め込まず、この景色を眺めながら過ごす時間も、侘桜らしい滞在のひとつだと感じました。
1日目 16:40 好きな時間に温泉を楽しめる客室風呂

侘桜では、大浴場ではなく客室ごとに温泉を楽しめます。
そのため、入浴時間を気にすることなく、自分の好きなタイミングで何度でも湯に浸かれるのが魅力です。
窓の外には森が広がり、湯船に身を預けると視界いっぱいに自然が映ります。
昼はやわらかな木漏れ日を感じながら、夜は静寂に包まれながら。
時間帯によって異なる景色を楽しめるため、一度だけではなく、滞在中に何度も入りたくなる温泉です。
客室に戻れば、そのままソファでくつろいだり、テラスで風を感じたりと、湯上がりの時間までゆったり過ごせます。
1日目 17:30 夕食まで、静かな館内を歩く

夕食までは少し時間があります。
館内を歩くと、築二百年以上の古民家を移築した母屋や、手入れの行き届いた庭が夕暮れのやわらかな光に包まれています。
宿泊者だけが過ごす静かな空間だからこそ、足音さえもゆっくりと響きます。
急いで観光をする旅ではなく、その土地の空気を感じながら過ごす旅。
侘桜は、そんな時間の過ごし方を自然と教えてくれる宿でした。
1日目 18:00 秋田の恵みを味わう夕食

夕食は、落ち着いた雰囲気の食事処でいただきます。
席へ案内されると、窓の外には庭が広がり、昼間とは違った静かな景色が迎えてくれます。
侘桜の料理は、秋田の旬を大切にした会席料理です。
地元で育まれた食材を中心に、その季節ならではの味覚を一皿ずつ楽しめます。
料理が運ばれるたびに食材や調理法について丁寧な説明があり、一品ごとに期待が高まります。
その土地で採れたものを、その土地で味わう。
旅先ならではの楽しみを感じられる時間です。
最初にいただいた椀物は、透き通った出汁の香りが印象的でした。
器に顔を近づけると、湯気とともにやさしい香りが立ち上ります。
素材そのものを引き立てる味付けで、派手さではなく、出汁の旨みをじっくり味わえる一品です。
一口目から肩の力が抜けるような、穏やかな食事の始まりでした。
料理だけではなく、器や盛り付けにも季節感が取り入れられており、目でも楽しめます。
侘桜では、一皿ごとにゆっくり味わう時間も大切にしたくなります。

この日の焼物は、秋田牛をいただきました。
焼き加減は絶妙で、口に運ぶと肉の旨みがゆっくりと広がります。
添えられた野菜も地元の旬の食材が使われており、素材の味を活かした仕上がりです。
薬味を添えることで味の変化も楽しめ、一皿の中でさまざまな表情を感じられました。
料理は量が多いというより、一品一品をゆっくり楽しめる構成です。
季節が変われば献立も変わるため、違う季節に再び訪れてみたいと思わせてくれます。
食事を終える頃には、すっかり外は暗くなっていました。
窓の外には静かな夜の景色が広がり、宿全体が落ち着いた空気に包まれています。
夕食は、単にお腹を満たす時間ではなく、侘桜という宿の魅力をあらためて感じる時間になりました。
1日目 20:30 夜の温泉で一日の余韻に浸る

食後は再び貸切の温泉へ。
夜になると周囲はさらに静かになり、昼間とはまったく違う雰囲気になります。
照明に照らされた湯面がゆっくり揺れ、耳に届くのは虫の声や風が木々を揺らす音だけ。
時間を気にせず温泉に入れるのは、客室温泉ならではの魅力です。
湯上がりはテラスへ出て夜風を感じたり、ソファでゆっくり過ごしたり。
何か特別なことをしなくても、この宿ではその時間そのものが贅沢に感じられます。
自然の中で静かに一日を締めくくる。
侘桜らしい夜の過ごし方です。
2日目 8:00 朝の景色とともにいただく朝食

翌朝は、窓の外に広がる緑を眺めながら朝食をいただきます。
朝の光が差し込む食事処は、前夜とはまた違った穏やかな雰囲気です。
朝食には、秋田県産のお米や焼き魚、地元の食材を使った小鉢など、和朝食ならではの献立が並びます。
一品ずつ丁寧に用意されており、朝から身体にやさしく染み渡るような味わいです。
炊きたてのご飯と温かい味噌汁。
旅館で迎える朝だからこそ味わえる、ほっとする時間でした。
朝食を終えて客室へ戻ると、窓の外には朝露に濡れた森が広がります。
チェックアウトまでの時間も慌ただしく過ごすのではなく、最後まで静かな時間を楽しみたくなる宿でした。
2日目 11:00 静かな時間を持ち帰るように宿をあとに

チェックアウトを済ませ、再び茅葺き屋根の門をくぐります。
滞在中に印象に残ったのは、豪華な設備や華やかな演出ではありません。
建築の美しさ、森に囲まれた静かな環境、好きな時間に楽しめる温泉、そして秋田の食材を味わう料理。
それぞれが自然につながり、宿全体の心地よさをつくり上げていました。
角館の武家屋敷を訪れる旅はもちろん、この宿でゆっくり過ごすことを目的に訪れる価値も十分にあります。
何もしない時間を楽しみたい方や、日本建築の美しさを感じながら静かに過ごしたい方に、訪れていただきたい一軒です。



